服部呉服店

玄関先にずらっと並べられた商品の合間の、ガラス戸をあけると、先客がいました。近くの学生さんが2人、池上の歴史を聞かせて欲しいとご主人にインタビュー中でした。学生さんたちを相手に、ご主人は何枚もの古い写真出したり、反物を広げてみたり。丁寧にインタビューを受けられていました。

待っている間に店内を見回すと、ちょうど七五三のお祝いの着物のセットが、所狭しと並んでいます。男の子の羽織袴に、女の子の被覆がついた晴れ着と帯、お手頃な値段が大きな文字で書かれています。

柱も壁も年季の入ったチラシで覆われています。どうやら、ご主人みずから、手描きのチラシがいい味わいです。

戦後間もない昭和25年、西荻窪からこの池上の地に越してこられたとのこと。当時はまだ「追いはぎが出そうなほど、何もない場所」だったそうです。当初は質屋さんを営まれており、大きな「蔵」を立ててそこで商売を始めたとのこと。

正月といえば、池上ばやしが来たり、法話の会を2階の座敷で開いたり、なにかというとご近所の皆さんの集合場所になっていたらしい。「とにかくうちに人が集まってくる。縁談の話や、すまいの相談、なんでもありです。いわば、よろずもめ事相談所みたいな場所かな」とご主人はうれしそうに話してくださいました。

服部呉服店の目玉商品は、店主がつなぐ「縁」ではないでしょうか。

笑顔が素敵なご主人